腹水濾過濃縮再静注法CARTについて

福島生協病院 外科部長 北口 浩

癌性腹水などの難治性腹水は患者さんを苦しめます。医師は腹水を抜くとその中の蛋白まで失い、結果として患者さんの衰弱が進むことを知っているので、これまで一般的には「腹水が貯まってもできるだけ我慢させ、腹水を抜くのは最後の手段」と言われていました。

この難治性腹水の治療には、デンバーシャント(腹腔静脈シャント)やCART(腹水濾過濃縮再静注法)があります。

デンバーシャントは腹腔と静脈をシャントする器具を皮下に埋め込む治療です。肝性腹水に対しては時々用いられますが、癌性腹水に対してこれを行うとDIC発症の危険があります。

一方のCARTは、腹水中の蛋白質だけを取り出し濃縮再静注する治療です。30年前に保険適応となり、これまで主に肝性腹水に対して施行されてきました。癌性腹水に対してこれを行うと、腹水中の細胞成分が多い為、濾過器が目詰まりを起こし、すぐに濾過が出来なくなるので事実上施行不可能でした。

ところが近年、新しい方式が開発されこの問題が解決されました。従来方式の改良により、癌性の細胞の多い腹水も濾過再静注ができるようなったのです。この改良式のCARTをKM-CARTと呼び、2012年5月には厚労省に認可されました。

2012年にKM-CARTの開発者である松崎圭祐先生主宰の研修会で研修させて頂き、2013年4月に当院でも癌性腹水へのKM-CART第1例を実施しました。(ちなみに松崎先生は広島大学出身で、その昔当院にも非常勤で勤務されていたことがあると伺いました。)

以下、KM-CARTついて簡単にご紹介します。

適応は、難治性腹水(肝性、癌性を問わない)。禁忌は高ビリルビン(10mg以上)の患者さんです。(5mg以上はcase-by-case、5mg以下は可能です。CARTでビリルビンまで濃縮静注されてしまうためです。)粘液成分が多く、ねんちょう度の高い腹水の場合は、濾過器が目詰まりするので不可です。胸水を伴う場合は腹水と同時に抜いて、一緒に濾過再静注することも可能です。標準的には2泊3日の入院で行います。今後、難治性腹水でお困りの患者さんのお役に立ちたいと考えています。

図1 図1