No.413  2006年10月号
 大阪地裁判決(五月)に続いて広島地方裁判所においても、八月四日、原告四十一名全員に対して、国の原爆症認定却下処分を取り消す判決が示されました。判決は、被爆者の状況を全体的・総合的に判断し認定をおこなうという基本的視点を踏襲するばかりでなく、国が唯一基準としてきた「DS86線量」やそれに基づいた「原因確率」を、「最低限度の参考値」(前者)あるいは「単なる判断の目安」(後者)とする見解を示しました。国は松谷訴訟最高裁判決(二〇〇〇年、原告勝訴)後も、原爆被害を「初期放射線(直接被爆)」に限定し続けてきましたが、判決はこれまでの原爆訴訟を通じて、もっとも厳しい言葉で、もっとも直裁に、その不合理性を批判したものと言えます。
 原告一人ひとりに対するDS86線量評価と実態との乖離は急性症状の理解に典型的にあらわれており、国は(DS86で)五十ラド以上でないと急性症状はおこらず、従って例えば遠距離・入市被爆での脱毛はストレスであるとする考えを、今回も主張してきました。しかし判決は逆に、「(急性)症状の存在は放射線被曝の事実を示す有力な徴憑(ちょうひょう、証明材料)」であるとし、「(原爆症認定の)起因性判断に当たっては判断要素とすべきである」と明確な見解を示しました。
 内部被爆にも言及し「被爆者の受ける被爆線量は容易にこの基準値(DS86のこと)よりも高いものとなる」と述べ、内部被爆を「異質の被爆」とも呼び、そのことを「銘記しなければならない」とまで指摘しました。このような判示も初めてのことであり、広島地裁判決がいかに原爆被害の核心に迫ろうとしたかが伝わってきます。
 国は直ちに控訴しました。物故した原告とともに舞台は広島高裁へとうつりました。広島地裁判決の内容を一層広く知らせるたたかいが、今始まったといえます。
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