生協歯科ひろしま  所長 今川 裕敏
No.388  2004年7月号
 歯を失う原因として最も多いものは虫歯です。しかし、虫歯にもなっていないのに歯がだめになってしまうのが歯周病です。歯周病は歯を支える組織の病気です。歯を支えているのは歯槽骨と歯根膜という繊維組織です。歯周病が進行すると歯槽骨が溶けていき、歯がぐらぐらとなり抜歯せざるを得なくなるのです。
 歯周病は慢性の細菌感染症ということができます。歯と歯肉が接する部分に正常でも1〜2ミリの溝がありますが、歯周病の場合はこの溝が深くなり、その中で歯周病原菌が繁殖し病巣を形成します。そうすると歯の周りの溝はさらに、深くなり膿が出るようになります。だんだん歯槽骨も溶けていきます。
 歯周病の治療方法は、@歯ブラシの指導、A歯石除去、B歯周ポケットソウハ、C歯周外科、Dメンテナンス。以上の中でBとCは進行した歯周病のケースで行います。最も重要なのは@の歯ブラシで、歯と歯肉の境目のみがき残しがないようにしなくてはいけません。
 歯周病の病巣で歯周病原菌が繁殖すると、その菌体や菌が産生する毒素が血管中に侵入していきます。そのために全身的な影響が出ることが近年わかってきています。
 心筋梗塞、狭心症といった心臓血管疾患のリスクが歯周病の患者で非常に高くなります(男性の場合二倍以上)。
 糖尿病になると歯周病が悪化することは以前から知られてきていますが、最近は歯周病が糖尿病を悪化させることもわかってきています。つまり、歯周病を治療することが糖尿病の治療にもつながることになります。糖尿病の患者さんはぜひとも歯科を受診してください。
 その他にも歯周病の患者は呼吸器疾患や、低体重児早産のリスクが高くなるようです。さらには死亡率も高くなるそうで、まさに命に関る病気との認識が必要です。
 喫煙によって歯周病が悪化することも最近では定説になっています。喫煙者は歯周病の治療の効果が上がりにくく、禁煙して歯周病が改善したケースもたくさん報告されています。
 世界各地で行われた調査の結果では、喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病のリスクが二から十四倍と報告されています。
 喫煙が歯周病を悪化させるメカニズムとしては以下のように説明されています。
@喫煙によって歯周病原菌が増加すること。
A喫煙によって組織の免疫力が低下すること。
B喫煙によって組織の再生能力が低下すること。
 喫煙によって口腔がんの発生リスクが高くなることも当然ですし、歯科医師としても禁煙を薦めます。
 歯周病はかなり重症にならないと自覚症状があらわれません。例えば、歯がしみる、歯肉から出血すると言ったサインがあれば歯科を受診すべきですし、何もなくても年に一度は歯科を受診してみるべきだと思います。
今川 裕敏 歯科医
 1959年生まれ、1984年広大歯学部卒。1990年生協歯科ひろしま開設から赴任。趣味は音楽鑑賞(クラシック&ジャズ)
 
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