No.399  2005年7月号
団地の下の森を通り抜けて、バス停まで出ると五つぐらい先の停留場へ行ける。時間は十五分もかからないが、歩いて楽しい道だ。いつのまにか夏のせみに代わって、秋の虫がいっせいに鳴き出している。うるさい程の虫の音は、不要と思われる「感情」を全て洗い流してくれる。他人に出会うこともあまり無い。夕方は早くから、暗くなって、歩くのが怖いから帰りは通らない。ところがちょっと前に、山の下の階段のところに座って本を読んでいる老女と、その後に猫が二匹寝そべっているのを見た。近づくと私に話しかけてくれた。「外で本を読むのも良いもんですネ、私は一人者だからほとんど外に出ないけど、ここは好きなんです」また、「一ヵ月三万円の年金で」生活していると言う。ことは生計が苦しいのだろうが、その人はあっけらかんとしていた。「自己責任」を通して、「保障の枠外」にいるのだろうか。私も時間が無いしあまりおじゃましてもと思いその場を離れた。後日、また会えるかなと思い、下りて行くが何ヵ月も会ってない。雨降りが多かったからだろうと思う。朝の気温も急に下がり始めたようだ。先頃の老女と自分を重ねて、肌寒さも増してくる。私達は今、何かやらなければ大変な世の中になるのではないか、と先が思いやられる。(HHM)
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