No.383  2004年2月号
 その昔、 貧しさに喘いでいた私の生家は、 山はあっても杉やヒノキを植える金も人手も足らず、 ずっと天然林(雑木林)だった。 それで子どもながら一年中青々と植林されたよその山が羨ましかったものだ。 まさに青い山々は富の象徴だった。 唯一、 日の目を見るのは、 小学生の秋の写生大会の折。 学校から近いわが家とその背景にある、 見事な紅葉の山である。 ところが時代は変わった。 紅葉の時期になると、 あの青々とした山をお持ちの方から、 通りすがりの方から、 あまりにもきれいな紅葉だから、 できればいつまでも山に手を入れないで欲しいと言われたとのこと。 その上、 紅葉を引き立てていた(?)古い茅葺きの家は、近年の茅葺き民家再生の波に乗ってか、 保存会のシンポジウムのポスターに登場。数日後には団体の方々が見学に訪れたとも聞いた。 これはいったいに、 一時の単なるブームなんだろうか、 それとも人々は何かに気づき始めたのだろうか。 そんな折、 テレビでイギリスの古い藁葺きの家を買い、 高い修理代と時間をかけて住む人たちの満ち足りた顔を見た。 私はそこにすべての答えが出ていることを感じた。 (HNI)
 
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